戻る  ■ デート日和

 天気、快晴。
 リサーチ、OK。
 あとは決行を待つばかり。

 リナはすこぶるご機嫌だった。


「ガウリイ、デートしよっか」
 宿の食堂で昼食をとったあと。
 二階へ向かう階段の途中、突然聞こえたリナの言葉に、思わずガウリイは足を踏み外しかけた。
「……んあ?」
 聞き違えたかと思って、後ろにいる彼女のほうを振り返る。
 当のリナは笑みを浮かべて、もう一度、先程の言葉を繰り返した。
「デートしよっか、て言ったのよ」
 ――どうやら聞き違いではないらしい。
 リナがそんなことを言い出したのは初めてだ。
 とはいえ、普段ほとんど一緒に行動しているわけだから、デートと言われても、それはいつもの二人と似たようなものではなかろうか。
 彼女の意図を計りかね、ガウリイは返事に困ってしまった。
「なんで黙るのよ?」
 反応が気に食わなかったらしく、リナの顔から笑みが消える。
「いや……」
「……なによ、ヤなの?」
「ああ、いや、ええと、そうじゃなくて」
 憮然とした表情を見せるリナに、あわてて否定するガウリイ。
「……なんでいきなりそんなこと言い出したのかと」
 どうにか言葉を続けると、リナは再び表情をやわらげた。
「いいじゃない、たまには。
 どうせすることないでしょ? ガウリイ」
 言いながら階段の手すりに寄りかかる。
「まぁ、そうだが……」
 確かに今は仕事を請け負っているわけでもないし、特別何かやりたいことがあるわけでもない。
「ぶっちゃけると、この町で飲みたいジュースがあんのよ。
 けど、それって二人で行かないと注文できないらしいのよね」
「ああ、なんだ。それに付き合ってほしいのか」
「そういうこと。OK?」

 もちろん、彼に断る理由はなかった。


 デートと言っても別に外で待ち合わせるわけでもなく、二人は一緒に宿を出た。
 目的のジュースを味わえる店は、大通りを少し歩いた先。
 お昼どきを少し過ぎた頃のせいか、着いた店の中はいくらか空いていた。
 手近にあった、テーブルの片側に長イスだけの席へ並んで座り、目当てのものを注文する。
 やがて運ばれてきたのは、二人分の大きなグラスに入った、薄い翠色のフルーツジュース。
 グラスの縁にはカットオレンジが添えられて、氷の隙間にささっているのはピンクと白の二本のストロー。
「なるほどな。だから二人でないと注文できないのか」
「……そうみたいね」
 ガウリイの呟きに言葉を返しながら、リナはストローの一本でカラカラと氷をかき混ぜる。
 ――と。
「あ」
 留め金が緩んでいたのか、ふいにリナのイヤリングが片方、外れた。
 床に落ち、テーブルの下へ転がってしまう。
「ガウリイごめん、足元。とってくんない?」
「おう」
 言われて彼が身をかがめる。

 からん。小さくグラスの中の氷が音を立てた。


「ほら」
 拾い上げたイヤリングの片割れを、リナの耳に戻す。
「ん。ありがと、ガウリイ」
 片肘をついて、リナが嬉しそうな表情を見せる。
 笑みを返し、ガウリイはイスに座りなおした。
 彼がイヤリングを拾い上げるまで待っていたのか、グラスの中身はまだ減っていない。
「飲むんだろ?」
「うん。――ガウリイも飲む?」
 せっかく二本あるし、と、リナが白いストローを指す。
「けどこれ、リナが飲みたかったんだろ?」
「いいわよ、少しくらい。
 もともと二人用なんだし、付き合ってくれてるお礼」
「そうか? じゃあ、遠慮なく」
 応え、ガウリイが白いストローを口に含む。
 リナは何も言わず、笑みを浮かべて彼を見ていて。
 一息にジュースを吸い上げ――ようとしたところで、ガウリイは動きを止めた。
「…………う?」
 吸い込んでいるはずなのに、なぜかジュースの味がしない。
 否、ジュースが口まで上がってこない。
「どうかした?」
 相変わらず片肘をついた姿勢と笑顔のまま、リナが訊いてくる。
「……いや、えーと」
 もう一度吸い込んでみた。
 やはりジュースがストローの中を上がってこようとしない。
「……どうなってんだ?」
「なにがよ?」
「飲めない」
「そう? ちゃんと飲めるわよ?」
 リナがピンクのストローを口に含み、ジュースを吸い上げる。
 グラスの中身は、ストローを通ってきちんとリナの口の中へ。
「うん。なかなかおいしーじゃないの♪」
 満足げに微笑むリナ。
 納得いかないような表情を浮かべ、ガウリイは白いストローをくわえると、もう一度吸い込んだ。
 ……が。
「うぐぐ」
 何度やっても、結果は変わらない。
 ストロー相手に悪戦苦闘するガウリイ。
「……っぷは」
 しばらくすると、突然リナが吹き出し、顔を俯かせた。
「ふっ……はは、あははっ!」
 そのまま、おかしそうに笑い出す。
「……リナ?」
「あっはは。そこまでうまくいくとは思わなかったわ。
 いい加減気付きなさいよ、ばかねー」
「へ?」
 笑いをこらえながら続けたリナの言葉の意味が理解できず、ガウリイは惚けた声を上げる。
「横から見てみなさいよ、すぐわかるから」
 グラスを指し、リナが愉しそうな表情を浮かべる。
 促されるままグラスを横から眺めてみれば――
「……って、なんだこりゃ」
 なぜか白いストローの下だけに、細い紙が巻かれている。
 どうやらグラスの中身が吸い上げられなかったのは、これが原因だったらしい。
 まさか最初からこうなってるわけではないだろう。
 先程からの様子を考えても、こんなことをした犯人は。
「いつのまにこんなもん仕掛けたんだよ、リナ……」
「うん? さっきあんたがイヤリング拾ってくれてたときよ?」
 くく、と小さく笑って、リナは白いストローを抜き出した。
 そして先に巻かれていた紙を取り除き、くるくると指先でストローを回す。
 ガウリイは、やっとリナの意図を理解して、
「なあ……もしかして最初からこれがやりたかったのか? お前さん」
「だーって暇だったんだもん。
 せっかくいい天気なのに魔道書読んで過ごすってのもアレだし。
 あんたもちょーど暇つぶしになったでしょ?」
「……あのなあ……」
 あきれるやらがっくりするやらで、頭を抱えて項垂れるガウリイ。

 くすくすと笑いながら、リナは白いストローをグラスの中へ戻した。


「んー、ホントにいい天気だわー」
 店を出たところで、リナが大きく伸びをする。
 結局フルーツジュースは、リナがそのほとんどを味わって。
 最後に少しだけ、ガウリイにも分けられた。
「………………」
「なぁによ、まだふてくされてんの? ガウリイ」
 めっきり口数を減らしてしまった彼のほうを向き、リナが言う。
「別にいーじゃないのよ。
 あれが飲みたかったのは本当だし、二人じゃないと注文できなかったのも本当!
 出かける理由にウソはついてないわよ。
 いぢめたお詫びにジュースもちょこっとあげたでしょーが」
「まぁ、そうだけどな……」
 がしがしと頭を掻いて、はふ、と息を吐くガウリイ。
「……あんましいつまでもふてくされてると置いてくわよ」
 そっけなく言いながら、リナが通りを歩き出す。
「? 宿あっちだぞ。戻るんじゃないのか?」
 立ち止まったまま、不思議そうにガウリイが言葉を投げる。
 と、リナは足を止め、くるりと身体ごと振り返った。
 つかつかとガウリイの傍まで戻ってくる。
「――ったく!」
 ぎゅ、と。リナが腕を絡ませた。
 そのまま手を握って。彼の顔を見上げて。

「デートしよ、つったでしょ。
 忘れてんじゃないわよ、ばかくらげ」

 拗ねたような表情を浮かべた彼女の呟きに。
 ようやく、ガウリイは笑った。


■ Comment ...

せっかくなので状況を忠実に展開させてみたスレイ(中略)テレカネタその2。
…ああなんだかそこはかとなくリナガウ風味(笑)

しかしよく考えるとやっぱテレカのアレもジュースなんだろうかという気が
してこなくもなかったり。うーん?


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