「リナリナリナ!」
明るい声で名前を呼ばれる。
振り返れば、とっておきのオモチャを見つけた子供のよーな笑顔で駆けてくるあたしの旅の連れ。
「はいはいはい。
なによガウリイ、あんたあっちの店見に行ったんじゃなかったの?」
あてのない旅の途中、そこそこ大きな町に着いたのが昨日。
でもって今日一日町を観光するべく宿を出たのがついさっき。
大通りに並ぶは町のウリでもあるらしい露店の数々。
まずはリサーチ、てことでガウリイと二人、てきとーな店を覗いているわけなのだけど。
「ああ、行ってきた。そこの店のひとに聞いたんだけどな」
あたしの傍まで戻ってきたガウリイが、相変わらず楽しげな表情のまま話し出す。
いわく、この町自慢のとれたて果実を使ったジュースが絶品とのこと。
「向こうの通りの店にあるらしいぞ。行ってみるか?」
「とーぜん♪」
ガウリイの問いに笑顔でことばを返すあたし。
そこにおいしいモノがあるならば、むろん行かない手などなしっ。
かくてあたしとガウリイは、そのフルーツジュースが味わえる店へと向かったのだった。
見た目はどこにでもありそうな飲食店。
しかし中に入ってみれば、けっこーたくさんの人で賑わっている。
お昼どきなのもあるかもしれないが、どうやら味の保障はありそうだ。
向かい合わせの席は全部埋まっていて、空いているのはテーブルの片側に長イスだけの席がいくつか。
とりあえずそのうちのひとつに座ると、すぐにウエイトレスのねーちゃんがやってきた。
「えっと、カルスジュースっていうのお願い」
「あ、オレも」
「……はい、おふたりの分ですね」
目的のジュースを注文すると、ウエイトレスのねーちゃんは小さく笑みを浮かべてそう答え、テーブルから離れていく。
「どんなのなんだろーな」
「ま、来たらわかるでしょ」
となりで嬉しそうな顔をするガウリイにそう言いながら、つられてあたしの表情もゆるむ。
やがてそう時間が経たないうちに、さっきのねーちゃんが戻ってきた。
「おまたせいたしましたー」
言いながら、彼女がテーブルの上へグラスを置く。
グラスの中身はキレイなグリーン。
縁に飾られているのはカットオレンジ。
香りもなかなか悪くない。
――しかし。置かれたのは大きなグラスがひとつだけ。
そしてそこにささっているのは、色違いのストロー二本。
こ……こりはもしかして…………
「それでは、ごゆっくりどうぞ」
「ちょ、ちょっと待って!」
あわてて立ち上がり、テーブルから離れようとするウエイトレスの腕を、がっし、とつかむ。
「……なにか?」
ほんのわずかに怪訝そうな表情を見せる彼女。
「えええっと、これ、ふたり分頼んだんだけど」
「はい、ですから、おふたりの分を」
「…………ふたりでひとつ……?」
「はい。カップルの方にとても人気で」
うああああああやっぱしぃぃぃぃぃぃぃぃっ!
「こ、これ、もうひとつ頼めない?」
「申し訳ありません、お客さま。
本日はそれが最後の一品になっておりまして」
「で、でもまだお昼すぎ……」
「なにぶん数量に限りのある商品なものですから。
――もうよろしいですか?」
にっこりと笑顔を残し、去っていくウエイトレス。
「…………うみゅうぅぅぅ……」
半分ほど思考が停止して、イスの上にへたり込みつつうなるあたし。
横を見れば、テーブルに片肘をついて愉しそうに笑ってるガウリイ。
「……あんた知ってたわね?」
あたしもテーブルに肘をついて、ジト目でにらむ。
「先に言いなさいよ、そーいうことは!」
「言ったら嫌がるだろ?」
「当たり前でしょーがっ!」
なんでこんなどこぞのバカップルみたいなマネしなきゃなんないのよ!?
思わず声を荒げるあたしに、返ってきたのはガウリイの苦笑。
「リナ。あんまりでかい声出すと注目されちまうぞ?」
「うっ……」
言われて一瞬ことばに詰まり、あたしはいくらか声を抑えた。
「こ、こんなのふたりで飲んでたって注目されるわよ、ばか」
「そうか? そんなに気にされないと思うぜ?」
「ええい、うっさい!
こんなくそはずかしー飲み方できるわけないでしょーがっ」
小声でそう叫ぶものの、
「けどさ、リナ飲みたいだろ? オレも飲みたいし」
ガウリイは面白がってるとしか思えない表情で軽く返事するばかり。
なんかくやしいっ!
「……だったら交代で飲めばいいじゃない。
あたしが先に飲むから、あんたあとで飲みなさい。いいわね!?」
「しょーがねえなあ……」
ようやくたどり着いた妥協案に、彼が苦笑しつつ肯く。
が、もちろん交代と言いつつ全部飲んでしまうのはお約束である。
密かに企みつつ、あたしはストローを口に含む。
そのまま少しジュースを吸い上げて。
「あ。ホントにおいしいかも」
ひんやりさっぱりしたのどごしと、ほんのり感じた甘みに、思わずことばを漏らす。
なるほどこれは当たりだわ♪
「ホントだな。うまい」
「でしょ?……って、なんであんたも飲んでんのよっ」
気付けば彼の顔がすぐ近く。
お互いの髪の毛が触れて、あたしはあわてて距離をとる。
「あ、あんたはあとからって言ったでしょーが」
「ん? だからまずリナが飲んで、オレがそのあとに飲んだだろ?」
そういう意味ぢゃないぃぃぃぃぃぃっ。
「あたしがひととおり飲み終わってからにしなさいってことよっ!」
「リナー。声がでかいって」
「うぐっ……」
視線だけ動かせば、何人か小さく笑ってる。
すっかり注目されてるし……
「……はずかしすぎる……」
思わず片肘をついてうなだれる。
――熱が引かない。
「飲まないのか?」
すぐ傍から、ガウリイの声。
「…………飲むわよ」
肘をついたまま。観念してあたしはことばを返した。
視線を向ければ、嬉しそうに笑ってるガウリイ。
宝物を手に入れた子供みたいに。
はずかしいけど。
くやしいけど。
あたしのガラじゃないけれど。
そんなカオされたら、降参するしかないじゃない?
「ん?」
あたしの視線に気付いたのか、ガウリイが訊いてくる。
絡んだ視線を逸らさずに。
あたしも、笑った。
「今日だけよ? ガウリイ」
「おう」
そうね、一度くらいなら。こういうのに付き合っても、まぁいいわ。
――となりにいるのはあんただしね。