足を踏み出すたびに靴が沈む。
はふ、と吐いた息は白い。
「――寒ー……」
吐息に混じって言葉が漏れる。
雪が降っているのだから寒くて当たり前なのだけれど。
それでもつい口から出てしまうのは仕方ない。
リナは襟元を引き寄せ、少しだけ足の運びを速めた。
前の町と、次の町までの中間点にある小さな宿場に着いたのは、昼すぎ。
宿に着く手前で雪が降り始め、着いたときには数人の同じような旅人が暖をとっていた。
迷うことなく、リナとガウリイも一泊することは決定で。
遅めの昼食を済ませたあと。
空は覆われた雲でかなり暗くなっていたけれど、雪は止んでいた。
ほんの少し、散歩でもしてこようかと一人で外出した。
再び雪が降り始めたのは、つい先ほど。
それでも宿に戻るまで、まだ少し時間がかかりそうだった。
(……ちょっと遠出しすぎたかなー)
ざくざくと雪を踏みしめながら歩くのがどことなく楽しくて、宿から結構の距離を歩いてしまった。
街道から外れてはいないはずだけれど、周りは白い風景しかない。
ひやりとした空気が頬を撫でていく。
ふと、何かの小さな音を聞いた気がして、リナは立ち止まった。
振り返る。
視界の端に映ったモノ。
リナは、道端の細い木の根元へと近付いた。
半分ほど雪に埋もれているのは、薄汚れた木箱。
被せられていた薄い板を取り除く。
みゃあ。
「――うわ、猫」
弱々しく鳴き声をあげながら、数匹の仔猫が箱の中で固まっていた。
そっと一匹を抱えると、ずいぶんと冷えきっている。
「むう」
小さく唸り、リナは空を見上げた。
コートから取り外したフードに全ての仔猫を包む。
リナの頭に直接雪が積もってしまうが、これしか方法がない。
ひとまずそのままで宿へ向かおうと、立ち上がって。
「――よ。何してるんだ?」
聞き慣れた声とともに、ふわり、と背中の寒さがやわらぐ。
すぐ近くに、穏やかな微笑み。
自分の外套でリナを覆うようにして、立っているのは金の髪の青年。
「ガウリイ」
名前を呼ぶと、彼は瞳を細めた。
「ああ、猫拾ったのか」
「うん」
肯くリナの髪をガウリイの手がやさしく撫でて、積もりかけていた雪を払う。
それから、二人で宿のほうへと歩き出す。
「やっぱし、寝覚め悪いじゃない? ほっとくのも」
言いながらリナが両腕の中の仔猫に視線を落とした。
おそらく雪はまだ止まない。
いつから捨てられていたのかはわからないが、このまま放っておけば死んでしまうだろう。
「けど、どうするんだ?
オレたちが飼うわけにもいかないだろ」
「そーだけど……」
大きく息を吐く。
ようやく、道の先に宿の建物が見えてくる。
「……とりあえず、今日は宿のひとに頼んでみるしかないか。
ずっと連れてくのは無理だけど……次の町で誰か飼い主見つかるかもしんないし」
そっと仔猫を撫でる。
リナの言葉にガウリイは何も言わず、微笑んだだけだった。
「ホントに――よく降るわね」
宿までもう少し。
ゆっくり歩きながら、リナは空を見上げた。
「そうだな」
穏やかな声が返る。
「……ねえ」
「ん?」
「寒くない?」
ガウリイは、ずっとコートの片側で、後ろからリナを覆っている。
合わせを開いている分、彼の身体が冷えるはずなのだが。
訊ねるリナに、彼の表情は変わらない。
「少しな」
白い吐息とともに短く返事が来る。
「……別に平気よ? もうすぐ宿だし」
「いいんだよ、オレは――」
瞳をやわらげる。
自分よりも何よりも。
ただ一人、ずっと護りたい存在。
「――お前の保護者だからな」
そっと紡がれた言葉は――降り積もる雪の中に溶けた。