戻る  ■ Frustration ... Gourry Side

 こん、こん。
 小さくドアがノックされる。
 意識するまでもなく、覚えのある気配がひとつ。
「リナか?」
 手入れしていた剣を鞘にしまうと、声をかけつつ、ガウリイは立ち上がった。
 開けたドアの向こうに立っていたのは、予想通りの少女。
「……なんか、してた?」
 いくらか遠慮がちにリナが訊く。
「ああ、もう終わった。どうかしたか?」
「ん、……たいした用事じゃ」
 ないんだけど、と言葉を続けながら。
 わずかにリナの視線がそれる。
「……入るか?」
「うん」
 肯いたリナを部屋の中へ入れて、ドアを閉める。
 ぎし、とベッドが軋む。
 二人で並んで座る。
「明日……」
 ベッドの上に足を乗せ、膝を抱えてリナが呟く。
「ん?」
「……どうしようか、と、思って」
「ああ」
 請け負っていた仕事が今日で一段落して。
 報酬も受け取った。
 今いる町はそう大きなほうではないけれど、けっこう店はある。
 もう一日くらいのんびり滞在してもよさそうだ。
「別に、急いでるわけでもないだろ」
「うん」
「観光してから発ってもいいんじゃないのか?」
「そーね……」
 とん、とリナが両足を床に下ろす。
「……じゃあ、そういうことで」
 笑みを浮かべて立ち上がり、彼女は自分の部屋へと戻る。
 ――いつもならば。
「リナ?」
 今日は、言葉だけで、立ち上がらなかった。
 笑顔も見せない。
 むしろ、ガウリイと視線を合わさないよう、わずかに俯いている。
「……リナ」
「あ」
 もう一度名前を呼ぶと、気付いてリナは顔を上げた。
「ごめん、なに?」
 浮かべた笑みはどこかぎこちなくて。
 視線もやはり合っていない。
「いや、……用事、それだけか?」
 ガウリイの問いに、すぐに言葉は返らない。
 何か、言おうとして。
 言えない。
 細い指が、シーツを握り締めている。
「――――……て、い?」
 しばしの沈黙のあと、リナの唇から言葉が漏れた。
 片手の甲で口元を押さえ付けているせいか、全てを聞き取れない。
「すまん。もう一回……」
 言ってくれるか、と続けようとした言葉を、ガウリイは飲み込んだ。
 覗き込んだリナの顔が、赤らんでいるのに気付いて。
「……だ、……だからっ……」
 さっきよりもいくらか声を強めて、リナが応える。
「さ、わっても、い……か、って訊いたのよっ……」
 言い終わるより先に、頬の赤みが増す。
「――どこに?」
「ど……っ、知らないわよっ!」
 返した言葉に、彼女はようやくガウリイと視線を合わせた。
「知らないってリナ」
「うっさいっ!……いいのかイヤなのかどっちよっ!」
 ガウリイが苦笑を浮かべると、リナは、ほとんど投げやりな口調で立ち上がる。
 たぶん――逃げ出したくてどうしようもない、んだろう。

「ほら」
 手を伸ばす。微笑みながら。

「触わりたいんだろ、――オレに」

 一瞬、悔しさと、恥ずかしさとが入り交じった表情を浮かべて。
 リナは、大きな手のひらに触れた。
 途端、ガウリイが、その手を引っ張る。
「あ、っきゃ」
 気付けばリナは、ガウリイの腕の中で。
「……殴るなよ。言ったのはリナだからな」
 耳元で声をかける。
「だ、抱き締めろとは言ってないわよっ……」
 ガウリイの肩口をつかみながら、小さく反論するリナ。
「仕方ないだろ?」

 ――オレも、触わりたくなったんだ。



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