戻る  ■ I.L. -Double-

 ――初めて覚えたキスはなんだか気持ちがふわふわして。

「なあ――」
 ふいに背中のほうから呼びかけられる。
 名前を呼ばれなくても、部屋の中には自分と彼しかいないわけで。
 ほんの少し、今までよりも彼の背中に自分を寄りかからせて、リナは次の言葉を待った。
「――していいか?」
「……なにをよ」
 ページをめくりかけた手を止めて、思わず反射的にそう返す。
「キスしたくなったんだけど」
 背中合わせのまま、彼が指にリナの髪を絡ませる。
 リナは、ぱさり、と魔道書のページをめくった。
「前はなにも言わずにしてきたじゃない」
「……いや、だから……あのときは怒っただろ?」
「当たり前じゃない、あたしは魔道書読みたかったのにジャマして」
「悪かったって。だから今日は訊いてるんじゃないか」
「……ふーん」
 ページの内容がアタマの中に入ってこない。
 彼に教えられた甘い感覚は嫌いではないけれど。
 自分が自分でなくなってしまいそうで。
 それでも、――もう心地好さを覚えてしまったから。

 ぱたん、と本を閉じる。
 後ろから、やわらかく抱きしめられて。

「――ガウリイ……」
「ん……?」
「ちょっとだけだから、ね」
「わかった――」

 ベッドが軋む。
 向きを変えて、彼の両脚のあいだに座り込む。
 いつもは剣を握る太い指。
 そっと髪に触れて、頬に触れて、唇に触れる。
 視線を上げる。
 穏やかな蒼い瞳が見つめていて。
 ゆっくりと近付く。
 至近距離で瞳を閉じる。
 軽く唇を触れ合わせて、すぐ離す。

 まだ数えられるほどしかしたことはないけれど。

 無意識に彼の袖をつかむ。
 もう一度唇が重なって、今度はすぐには離さなくて。
「……ん、……」
 背中を片腕で抱き寄せられる。
 少しだけ離して、けれどまた重ねて。

 交わす度にもっと欲しくなるのはなぜだろう――

 ゆっくりと重ねるだけのキスを繰り返して、そっと身体を抱きしめられる。
「――もっと、していいか?」
 ふわりと、髪を撫でる大きな手。
(あ――)
 大好きな、蒼い瞳。甘い声。
(――あたし、どきどきしてる……)
 流されるのは悔しくて。
 でも、やっぱり、気持ちいい――と、思う。
 それはきっと相手がガウリイだからで。

「…………うん」

 小さく、肯く。

 彼とするキスは――きっともっと好きになる――


   ◇


 やわらかな唇の感触を愉しんで、小さな舌を絡め取る。
 腕の中の存在は何よりも欲しかったもの。
「――ふ、……っ」
 一瞬放すと彼女の唇から吐息が漏れる。
 角度を変えて、それをまたすぐに塞いだ。
 まだ深いキスを教えてからそんなに経っていない。
 恥ずかしいのか、それとも悔しいのか、深く触れると身体が強張る。
 それでも逃げないのは、彼女が心を許してくれていると自惚れてもいいのだろう。
 口付けたまま、彼女の身体を抱き上げる。
 しがみつくように片腕がガウリイの首にまわされる。
 彼女を横向きに自分の上に座らせて、そっと唇を放した。
 細く糸が引く。

「――気持ちいいか?」
「………………悪かったら……してない、わよ」

 指で髪に触れながら訊くと、拗ねたような表情で、ぽそりと言葉が返る。
 苦笑して、こめかみに口付ける。
 されるまま、彼女の瞳が閉じられる。
 抱き寄せるように再び唇を重ねると、首にまわされた細い腕が、さっきよりも強くしがみついてくる。

「……ん、……ぅ」

 舌を絡ませる。
 小さく声を漏らして、ぎこちなく反応が返る。

(――まずい……な)

 唇を放す。
「……は……ふ」
 しがみついたまま、リナが息をつく。
 開いた瞳は潤んでいて。
 それは息苦しかっただけなのか、それとも――

(だめだ――止まら、ね……)

 押し付けるように唇を塞ぐ。
「ん、んー……っ」
 苦しげに呻いて、リナが強くガウリイの服を握りしめる。
 重ねただけで放すと、反射的にリナが大きく息を吸う。
 それに構わず、唇を首筋へ移動する。
「……え? ちょ……っ」
 うろたえ、逃げようとするリナを片腕で抱え、肌に口付けたままで服の合わせをゆるませる。
「やだ、ちょっと待っ……ガウリ……」
「リナ」
 短く呼んで、耳朶を甘く噛む。
 びくり、と小さくリナの身体が震える。
 それでもガウリイから離れようと、片手でシーツを手繰り――

「――ガ、ウリイっ、てばっ!!」

 ばふっ!

 なんとかつかまえた枕を、リナがちからいっぱいガウリイに叩き付ける。
 ようやく、彼は我に返った。
「そこまでしていいとは言ってないっ!」
 はだけられた服をつかみ、涙目でリナが睨み付けてくる。
「――あ、あー……すまん……」
 今は思いきり昼なわけで。
 たとえば夜で、せめて彼女がもう少し馴れてからでなければ、機嫌を損ねるのはわかりきっていたものを。
 片手で額を押さえ、ガウリイは項垂れた。
 性急に求めすぎた――
 焦るつもりはなかったはずなのに。

「もー……ガウリイのばかっ」
 乱れた服を直し、リナは魔道書をつかんでベッドから降りた。
 すたすたとドアのほうへ歩いていく。
「……部屋、戻るのか?」
「戻るわよっ。今日はもう来ないっ!」
 ガウリイの問いに、背中を向けたまま返事する。
「……了解」
 どうやらしばらく触わらせてもらえないらしい。

 勢いよくドアが閉まると、ガウリイはひとつため息をついた。


■ Comment ...

小説ごーるでんうぃーく2nd・そのいち。
今回はあんまりアダルトでもないのですが、まぁいちゃいちゃしてんのは
同じなので I.L. シリーズでス。
うちのガウリイはやたらとガマン強いひとなのですが、たまには暴走させてみたりして。
リナがまだ馴れてないのでこんなオチですが。
前半で期待したひとごめんなさいね(笑)

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