戻る  ■ 欲しいもの。

「そういえば」
 魔道書に見入っていたリナが、ふと呟いた。
「今日ってガウリイの誕生日じゃなかった?」
「……そーだったか?」
 ベッドの上で背中合わせに座り、剣を磨いていたオレは、手を止めてそう応えた。
 ……言われてみればそうだったような。
「あんたね、自分の誕生日くらい覚えときなさいよ」
 背中で呆れたような声が返る。
 オレは苦笑して、また布を動かし始めた。
「で? 誕生日だったら何だってんだ?」
「んー……なんか欲しいものある?」
「……欲しいもの?」
「欲しいもの」
 言われて、手が止まる。
 ――欲しいもの。オレが、欲しいのは――

「……ガウリイ?」
 気付けば、リナが不思議そうな顔で横から覗き込んでいた。
「どーしたのよ、急に黙っちゃって」
「……いや」
 オレは軽く笑って、剣の手入れを再開させる。
「別に、ないぞ?」
「そうなの?」
「おう」
「……なんにも? ホントに?」
「ないって」
「ふーん?」
 なんだか納得いかないような表情と声で、リナは、またオレの背中に、自分の背中をもたれかからせる。
「……せっかくなんかあげよーと思ったのに」
「そうだな、お前さんがそーいうこと言うの珍しいな」
「なによそれ。あたしだってねえ、たまには……」
「はいよ。ありがとな」
 肩から手を後ろにまわして、ぽん、とリナの頭に乗せる。
 そしてまた、オレは剣の手入れ、リナは魔道書の読書へと戻る。
 背中合わせのまま。


 ――欲しいのは。
 ただ、ひとつだけ――あるけれど。

「……なぁ、リナ?」
「んー?」
 小さく呼びかけてみる。読書に熱中してるのか、生返事だ。

 ――もし――
 もし、本当に、望んでいいのなら。
 けれどたぶん――まだ枷は外せないから――

 気付かれないように、少しだけ身体を傾ける。
 やわらかな、リナの髪。
 一房だけ。オレは、手のひらに取った。

 ―― 一瞬だけ、口付ける。

 今は。
 まだ、これでいい。


「……なんか、腹減らないか? リナ」
 手にしたままの髪を、くい、と引っ張ってみる。
「ちょっと、ひっぱんないでよ」
 魔道書から顔を上げて、リナが視線をオレに向けた。
「な、メシ食いに行かないか?」
「……あんた、もしかしてそれが欲しいものとか言わないわよね?」
「おお、そういえば! よし、それで行こうリナ!」
「甘いっ! おごるのは一品だけねっ!」

 ぱたんっ、と本の閉じる音。
 オレも手にしていた剣を鞘に収める。
 そして背中に感じていたぬくもりが離れて。

「んじゃ、行きますかっ」
「おうっ」


 今はまだ。
 ――傍にいるだけで。


■ Comment ...

最初はもうちょっと長くなる予定だったのですが、まぁさっぱりと収まったので(笑)
全然まだ出来上がってない二人ですね〜。
私は一応リナとガウリイが二人いっしょにいてくれればそれでも充分OKな奴なので、
こーいうほのぼの話も大好きです♪
でもちょっとだけガウリイ切なげ?
・・・うちの彼はホントに我慢強いっすね(爆)

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