戻る  ■ 閑暇夜話

 ――特に用があったわけじゃなかった。
 夕食が済んで、お風呂にも入って、けれど、寝てしまうにはまだ少し早い時間。
 かといって魔道書を読みふける気にもなれず。
 なんとなく、ガウリイはどうしてるだろうと気になった。
 同じように暇を持て余しているとしたら、ちょうどいい。
 たまには雑談して過ごすのもいいだろう。
 リナは、隣の部屋のドアを軽くノックした。
 が、いつもならばすぐに返ってくるはずの返事がない。
「……ガウリイ?」
 名前を呼びながら、もう一度ノックしてみる。
 それでも返事はなかった。
 試しにドアノブを押してみると、鍵は開いている。
「ガウリイ、寝てるの?」
 声をかけつつ中を覗き込んで――そこには誰もいなかった。
 灯りすらついていない。
 どうやら、どこか別の場所にいるらしい。
 リナは少しだけ考え、ガウリイを探すことにした。

 みゃあ、と鳴き声。
 一階の酒場を見まわしたあと、宿屋の裏口から外に出てみたときだった。
(……猫……?)
 鳴き声のしたほうへ足を向ける。
 数歩進んだところで、広がる雑木林の手前にしゃがみ込み、茶色の毛並みをした猫を撫でている青年の姿が見えた。
「ガウリイ?」
 近付きながら声をかけてみる。
「ん?」
 呼ばれて振り向いた彼は、大きな手で猫を抱き上げながら、笑顔で立ち上がった。
「どうした? リナ」
「……いや別に、どうしたってわけじゃないんだけど」
 ガウリイに抱えられた猫は、気持ちよさそうに、ぐるぐるとのどを鳴らしている。
「ずっとここにいたの?」
「ああ。晩メシ食ったあとに、こいつ見かけてな。
 遊んでたんだ。特にすることもなかったし」
 応え、ガウリイは近くの石の上に腰掛ける。
 膝の上に猫を乗せると、それは丸くなった。
 どうやら、すっかりガウリイに懐いてしまったようだ。
 一人で突っ立っているのも何なので、リナはガウリイの前にしゃがみ込んだ。
 そのまま膝の上に肘を乗せ、両手で頬杖をつく。
「ずいぶんと人懐っこい猫ね」
「そうみたいだな」
 リナの言葉に返事しつつ、ガウリイは猫を撫でている。
 何だろう?
 なんとなくつまらない。
 かすかな疎外感を感じて、リナは黙り込んだ。
 頭や胴体をゆっくり撫でられている茶色の猫は、幸せそうにガウリイの膝の上で寝ている。
 リナは、片手を伸ばしてみた。
 とたん、猫が威嚇のうなり声を上げ、その手の甲を爪でひっかいた。
「っあ……」
 痛みが走り、リナはとっさに手を引いた。
「リナ!」
 慌てたようにガウリイが腰を浮かせる。
 茶毛の猫は地面へ飛び降り、雑木林の中を逃げていった。
「リナ、大丈夫か? 痛いか?」
「だ、だいじょーぶだってば。ちょっと爪がかすっただけで」
 ひっかかれた手をとり、心配そうに訊ねてくるガウリイへ、リナは苦笑しながらそう応える。
「けど、血が出てるじゃないか」
「出てるって、にじんでるだけじゃないのよ。
 このくらいなら舐めとけば治……って、ちょっとガウリイっ」
 言い終わるより先にガウリイが傷口へ唇を当ててきて、リナは戸惑いと狼狽の入り混じった表情を浮かべた。
 リナがしゃがんだままなので、自然とガウリイも片膝を立てて跪いた格好になっている。
 それはまるで騎士に忠誠の証を受けている姫のようで。
 悪い気はしないのだけれど、やはりどうにも恥ずかしい。
 とはいえ何故だか無下に振り払うのも気が進まない。
「ん。これでいいか」
 少しのあいだ傷口を舐めて、やがてガウリイはそう呟いて顔を上げた。
 次いでリナと視線を合わせると、不思議そうに瞬きする。
「どうした? リナ」
「……いきなし何すんのよ」
 拗ねた声で、甘くガウリイを睨む。
 ちなみにまだ手はとられたままである。
「うん? リナが言ったんだろ? 舐めとけば治るって」
 言いながら、ガウリイはもう一度、リナの手の甲へ口付ける。
 さっきまでとは違う、触れるだけのキス。
「そ……そりゃ、言ったけどっ……」
 恥ずかしさが増して、今度はすぐさま手を振り払い、立ち上がってガウリイに背中を向ける。
 そんな彼女に苦笑を浮かべ、ガウリイも立ち上がった。
「猫、逃げちまったな」
 雑木林のほうへ視線を向けて小さく呟くガウリイ。
 リナは首だけで振り向いた。
 ふと、わずかな疎外感を思い出す。
「……淋しいんなら探せば?
 もしかしたらまだその辺にいるかもしんないわよ」
 言うだけ言って、リナはその場から歩き出した。
 が、すぐに左手をつかまれる。
「別にいいさ。
 ――猫なら、ここにもいるしな?」
「へ?」
 瞬間的に理解できなくて、リナは惚けた声を上げた。
 それに構わず、ガウリイはしっかりと彼女の手を握ると、
「んじゃ、部屋にでも戻るか。
 つってもまだ寝る時間でもないし、することもないんだよな……
 お前さんも暇なら、話し相手、頼んでいいか? リナ」
 微笑んでそう言うガウリイに、リナは二度ほど瞬きして――
 少しだけ、嬉しそうな笑顔を浮かべた。

「しょうがないわね。付き合ってあげるわよ――」


■ Comment ...

「猫」がらみのお話です。とりあえず小動物にからませてみようかと。
あんまり甘々べたべたにはならなかった気がしますけど、途中のアレはお約束(笑)
見てるほうが恥ずかしいわあんたらとかいう気分ですけど(爆)

関係としては出来上がってるような出来上がってないような。
まぁそこらへんはお好みでどうぞ(笑)
・・・ていうかどっちによるかで部屋に戻ったあとの展開が。

ちなみにタイトルは「かんかよわ」あるいは「かんかよばなし」と読んで頂けると嬉しかったり。
相変わらずタイトルつけるの苦手です。


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