覇王との死闘を終わらせたあと――
まだ色々と処理しなければならない事があるということで、あたしたち六人は旅立ちの許可が下りるまではガイリア・シティに残らねばならず、その間、とりあえず『保護』というかたちでアルスもと将軍の屋敷へ寝泊まりさせてもらうことになった。
――こんこんっ。
アルスもと将軍の屋敷へと移ったその日の夜、与えてもらった部屋であたしがくつろいでいると、ふいにドアがノックされた。
「オレだけど」
次いで聞こえてきたのはガウリイの声。
「開いてるわよ」
あたしが応えてすぐ、ドアがかちゃりっ、と開いた。
「どーしたの?」
「いや、いつまでここにいるのかと思って」
ベッドの上に座るあたしと向かい合うかたちで、ガウリイがイスに座る。
「……そーねー……たぶんあと3、4日くらいはいなきゃなんないでしょーね。城の封鎖は解けたらしいけど、まだ片付けなくっちゃならない処理とかあるし、勝手に出てくわけにもいかないでしょ」
まあ、あれだけごたごたした事件のあとなんだし、事後処理にも時間がかかるのは仕方ないことだけど。
「…それだけ?」
あたしが訊くと、ガウリイは一瞬黙り込み、ぽりぽりと頭を掻く。
「ガウリイ?」
「……すまなかったな」
「は?」
とーとつに謝られて、あたしは思わずきょとん、とする。
何か謝られるようなこと、したっけ……?
「すまなかった、って何が?」
心当たりがなくそう問うと、ガウリイは曖昧に笑みを浮かべた。
「戦ってた時。心配してくれたんだろ?」
「…戦ってたとき――って、覇王との?」
「その前に魔族と戦った時。駆け寄ってきた時あっただろ」
「あ……っ、あれはっ!」
思い当たることにたどり着き、あたしは思わず顔を赤らめた。
彼が言ってるのは、『ジェイド』と戦ってたときのことだ。
確かに、唱えていた呪文を中断させて、彼に駆け寄ったときがあった。
――攻撃が、彼に直撃したと思って。だから。
「ありがとな。あの時、それどころじゃなかったから言うの遅くなっちまったけど」
「…あ、あたしは別にあんたのこと心配したわけじゃ……っ。ただ、あそこであんたがやられたら、戦力的にきつかったからっ!」
あたしのことばに、ガウリイはやさしくほほえみ、
「そういうことにしといてやるよ」
くしゃり、と頭をなでてくる。
「しといてやるって何よっ! あたしはホントにっ……」
「あんな泣きそうな表情してたくせにか?」
苦笑混じりにそう言われて、あたしは思わず、顔がかあっと熱くなった。
「な…っなにうぬぼれてんのよっ!? このあたしが、そんなことくらいで泣いたりするわけないじゃないっ!!」
言いつつ、顔が真っ赤になってるのが自分でわかる。
「オレが死んでもか?」
「あんたなんか、殺したって死んだりしないわよっ。あのときだってへーぜんとしてたじゃない! あたしがせっかくっ……」
「心配してたのに?」
「そうよっ!」
勢いにまかせてはっきり応えてしまってから、あたしは慌てて口もとに手をあてた。
――不覚――
「ありがとな、リナ」
嬉しそうに笑って、もう一度言うガウリイ。
「…そうよ、心配してたわよっ。バカみたいだけどっ!」
投げやりにそう言って、あたしはそっぽを向いた。
そう、あのとき――あたしは呪文を唱えてた途中だったのに。
そんなことかまわずに、叫んで、彼に駆け寄ってしまっていた。
どんなときでも、ちゃんと冷静でいられたのに。
なのに、あのときは――
「……そういえばさ」
「ん?」
ぽつり、とつぶやいたあたしのことばに、ガウリイがやさしく聞き返す。
「あのとき…メフィが来る直前、あたしケガしたじゃない?」
「背中のケガか?」
「そう。…あたしがバカみたいならあんたもバカよね、敵に背を向けたりして」
言いつつ、ガウリイのほうを向く。
「そうだな」
応えて、ほほえむガウリイ。
「ホントにわかってんの? 普通敵に背中向けるなんて自殺行為よ?」
「仕方ないだろ、ほっとけなかったんだから。んなこと考えるより先に身体が動いてたよ」
――そうだった。あたしも、きっと。
呪文のことも何も考えないままに、彼に駆け寄っていたのだ。
彼と同じように。
「……ほんとバカよね。お互いに」
そう言って、あたしは笑った。
「でもありがと。心配してくれて」
あたしのことばに、ガウリイはただやさしく瞳を細める。
おっきな手であたしの髪をなでて、そのままその手が頬へとうつる。
「無事だったんだからいいさ」
「――うん」
肯いて、あたしは彼の手に自分の手を重ね、瞳を閉じた。
「…おやすみ、リナ」
誰よりもやさしい声で、彼が言う。
――触れたガウリイのぬくもりが、とてもあったかかった――
〜P240へつづく〜
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