何となく目がさえて眠れない。あたしはベッドの上で天井を見つめていた。
ガイリア・シティでの事件が何とか片付いたあと。とりあえず近場の宿をとり、ひとやすみしてから出発することになったのだが、あたしはなぜか眠れずにいた。
何せでっかい戦いのあとである。疲れてないわけではないのだが……
むくり、とあたしは身を起こした。今の時間ならまだ一階の酒場がやってるだろう。
いったん着替えたパジャマから普通の服に着替え直して、あたしは部屋を出た。
酒場は一応まだやっていたものの、ほとんどひとはおらず、いたのは長い金髪の男がひとり――って。
「…ガウリイ」
「よおリナ」
あたしの声に彼はほほ笑む。あたしはガウリイの隣に腰かけた。
「どうした? 眠れないのか?」
「んー…まあ、そんなとこ。そーゆーあんたこそ」
「さっきまでルークやミリーナもいたんだけどな」
……なんだ。みんないっしょか。
「しっかしルークもよくやるわよねー。全っ然ミリーナに相手にされてないじゃない」
軽い飲み物を頼み、あたしは言った。
「そうでもないだろ。少なくともお互いが信頼し合ってなきゃ一緒に旅なんかしてないさ」
「…まあそりゃそうだけど」
「だろ?」
からんっ、とガウリイの持つグラスの氷が音を立てた。
「それにしてもあんたホントにあたしたちに任せっきりだったわね」
「何がだ?」
「事後処理! オレは知んないって顔でのほほーんとしてたじゃないのよ」
たいがいはアルス将軍が取りなしてくれたものの、それでもいろいろと大変だったのに。
「だから先に言ったろ? オレは員数外だって」
「わかってるわよ。誰もあんたになんか期待してないわよっ」
言ってあたしは注文したものをひとくち飲んだ。
「ずいぶん無責任になったじゃないのよ。保護者だ保護者だ言っといてこの前も……」
言いかけて、あたしははたと口をつぐんだ。
「この前?」
「なんでもないっ」
「何だよ気になるじゃないか」
すぐ忘れるくせに。
「……前に宿で奇襲されたとき。全然心配してなかったじゃない」
ぽそ、とあたしは小さく言った。
「…あ? あー…ああ」
しばし考え込み、納得したようにガウリイが頷いた。
「もしかしてリナ、心配してほしかったのか?」
なっ……
「なんでそうなるのよっ!」
ああもう、だから言いたくなかったのにっっ。
「心配なんかしてもらわなくったって自分の身くらいちゃんと護れるわよっ」
あたしはくいっ、とグラスの中身を飲み干すと、立ち上がった。
「リナ?」
「部屋戻るっ! おやすみっ」
代金を置いて、あたしは階段のほうへと早足で向かった。
「待てよ、リナ。オレも戻るから」
階段を上りはじめたあたしの後ろから、ガウリイが声をかけてくる。
「なあ、そんなことくらいで拗ねるなよ」
時間が時間だけに、小声でガウリイが言ってくる。
「誰が拗ねてんのよっ。無責任さにあきれてるだけよっ」
あたしは後ろを向かずに、歩みも止めずに小声で応えた。
「……やっぱり心配してほしかったんじゃないか」
「だから違うって言ってるじゃないのよっっ」
心配なんかされなくたって平気なんだからっ。
自分の部屋の前まで来て、あたしはドアノブに手をかけた。
そのままかちゃりっ、とドアを開けて……
「…オレがホントに心配してなかったと思ってんのか?」
聞こえたことばに、あたしは後ろを振り返った。
向かい側の部屋の前で、ガウリイはただほほ笑んでいるだけだった。
「ガウリイ…?」
あたしが名前を呼ぶと、彼は黙ってあたしの頭をくしゃりとなでた。
「おやすみ。また明日な」
それだけ言って、彼は自分の部屋へと入っていく。
あたしも部屋に入ると、ぱたん、とドアを閉めてもたれかかった。
……もしかして、心配…してくれてた、のかな……
「そっか……」
つぶやいて、あたしはパジャマに着替えると、ベッドに潜り込んだ。
ガウリイになでられたところが、少しだけあったかかった――
〜P221 L16へつづく〜
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