「だーっ、もう疲れたああっっ」
言ってあたしは、近くの樹の根もとに座り込んだ。
「このへん全然宿場がないんだな」
立ち止まり、軽く息をついてガウリイが言った。
「丸一日半歩きっぱなしで次の町までまだ半日近く歩かなきゃなんないのよ。いい加減疲れたわ。どうせ急ぎの旅でもないし、ちょっと休んで行きましょ」
言うなり、あたしはガードをはずして樹にもたれかかった。
「しょーがねえなあ…」
同意して、ガウリイもガードをはずしてあたしの横に腰掛ける。
「眠ってもいいぞ。疲れてるんだろ?」
「……ん…」
言われるまでもなく、あたしは軽い睡魔に襲われていた。もたれている樹が日差しをほどよく遮って、ちょうどあったかい。
くしゃりと頭に何かの感触。ガウリイ、の……
なんだかとても気持ちよくて、あたしはそのまま意識を手放した。
ひだまりの中にいる。
ぼんやりとそう思って、あたしは戻ってきた意識をつかんだ。
「…うや…?」
瞳を開けると、見えたのは金色。反射的に触れるとさらさらしてて気持ちいい。
なんだっけこれ……
どーもまだ頭がはっきりしない。
「あったかい……」
意識がふわふわする。とにかく身体が気持ちよくて、あたしはそれに擦り寄った。
「……あれ?」
ぱちっ、とあたしは瞳を開いた。
瞬間、目の前にある見慣れた顔に身体が強張る。
……ちょ、なんでガウリイがあたしにもたれかかってんのよっっ。
一瞬呪文を唱えそうになったが、さっきのことを思い出してあたしは顔を赤くした。
さ、さっきの金色のあれ、ガウリイの髪だ。
じゃあやたら気持ちよかったのって……ガウリイの体温。
不覚。あたしがガウリイにもたれかかって寝てたんだ。
「…気持ちよさそうに眠っちゃって…」
安心しきった表情。そりゃいつも何も考えてないと思うけど。
その分、気はずっと張ってる、んだと思う。だからあたしは安心して信頼してる。
……ガウリイは安心、してるのかな。あたしの傍にいるの……
ホントに目の前にガウリイの顔がある。あたしは、もっと顔を近づけて―――
風にあたりの草が音を立てた。
瞬間、あたしは、ばっ、とガウリイから離れた。
……あたしっ…今なにしようと……っ。
顔があつい。赤くなってるのが自分でわかる。
なんだかすごく触れたかった。ガウリイの傍が、あんまり気持ちいいから。
……ひだまり、みたいだから。
「やっぱしちょっと疲れてるんだわあたし」
呟いて、あたしは自分の理解不能な行動に息をついた。
とにかく。とっととガウリイ起こして次の町に行こう。
あたしはガードを身につけて、寝入っているガウリイを軽く揺すった。
「ほらガウリイ、もう行くわよ。ガウリイ、ガウリイってば」
何度か呼ぶと、彼は小さく身じろぎして目を開けた。
「ねえガウリイってば。起きた?」
問いかけると、ガウリイが視線を向ける。どうやら起きたらしい。
「よく眠ってたみたいね。ガウリイこそ疲れてたんじゃない?」
「ん……いや…何か気持ちよかったから、寝てた」
あたしのことばに応えながら、ガウリイは傍に置いてあったガードを手に取り、身につける。
「もう行くか?」
「そうね。そろそろ行かないと夜までに宿に着けなくなっちゃうわ」
立ち上がり、あたしが歩き出すと、ガウリイもあとからついてくる。
「…リナ」
ふいに呼ばれて、あたしは歩みを止めずに顔だけ振り返った。
「なに?」
「…よく眠れたか?」
「え? あ…まあ、……うん」
訊かれたとたんにさっきのことを思い出して、つい、返事が曖昧になってしまう。眠れたかといえば、そりゃ眠れてた、んだけど。
「なんだ? 眠れなかったのか?」
「……いやあの、そうじゃないんだけど…」
まずい。顔が、赤い、かもしんない。
あたしは歩みを止めた。
「…ガウリイってさあ」
小さく声を出す。
「ん?」
「ひだまりみたい、なのよね」
「……ひだまり?」
「あったかいのよ。なんか…傍にいると…安心、するっていうか…」
「…うん」
「だから、つまり、……そーいうことだってば」
それだけ言って、あたしはまた歩き出す。
「え? …おい、リナ待ってくれよ」
ガウリイがあとを追いかけてくる。
「なあ、そーいうことってどーいうことだよ?」
隣に並んでガウリイに訊かれる。…ああもう。
「わかんなきゃいいわよクラゲなんだから」
はっきり言ってなんかやんない。……ガウリイの傍が気持ちよくて、安心しちゃって眠ってたなんてそんなこと。
「なあ」
「……なによ」
しつこい。
「もしかしてお前さんなんか照れてるか?」
「…だ、誰が照れてんのよ誰がっ。ばかなこと言ってないでとっとと行くわよっっ」
立ち止まってまくしたてると、あたしは早足でガウリイから離れた。
どーしてそう鋭くなくていいとこでだけ妙に鋭いのよあのばか!
「…全く、なんでよりによってガウリイにもたれかかってたのよあたしは……」
聞こえないだろう距離まで離れて、あたしは小さく呟いた。
ふと後ろを振り返ってるガウリイに気付いて、あたしは彼を呼んだ。
「なにしてんのよ、置いてくわよ!」
「おう」
応えたガウリイは、なぜか嬉しそうに笑ってた。
「……なによ?」
「何でもないよ」
くしゃり、とガウリイがあたしの髪をなでた。
ぬくもりが、なんだか心地よかった。