とん、と肩に何かがあたった。
見ればすっかり眠り込んでしまったリナがもたれかかってきていた。
オレは瞳を細めると、そっと彼女の髪を撫でた。
あてのない旅の途中だった。
丸一日半歩いて、次の町までまだ半日かかる……らしい。
リナがいい加減疲れたとわめいたので、樹の影で一休みすることになったわけで。
「……んー……」
もそ、とリナが身じろぎする。
一瞬起きたのかと思って顔を覗き込むが、どうやらまだ眠ってるみたいだ。
もう一度顔を見る。無防備なほどよく眠っている。
かなり疲れてたのか、それともあったかい陽射しのせいだろうか。
見上げると、生い茂った葉の隙間から光がほどよく注いでいる。
ちょうどひだまりの中にいる感じ、だなあ……
辺りに特別な気配はない。
オレは樹と、それからリナに身を預けて瞳を閉じた。
「……リイ……ガウリイってば」
ふと自分の名を呼ばれてオレは目を開けた。
眠ってたな……どれくらいたったんだろう。
「ねえガウリイってば。起きた?」
横手から聞こえる声に、オレは視線をそちらへ移した。
「よく眠ってたみたいね。ガウリイこそ疲れてたんじゃない?」
いつのまに目を覚ましたのか、すでにリナは身支度を整えて隣で笑っていた。
「ん……いや……何か気持ちよかったから、寝てた」
応えつつ、オレは傍に置いておいたガードを手に取った。
「もう行くか?」
支度を整えて問いかける。
「そうね。そろそろ行かないと夜までに宿に着けなくなっちゃうわ」
……リナ野宿すんの嫌いだからなあ。
促されて、オレはリナのあとをついて歩き出した。
「リナ」
ふいに思って呼んでみる。
「なに?」
歩みを止めぬまま、リナが顔だけこっちに向けて返事する。
「……よく眠れたか?」
「え? あ……まあ、……うん」
曖昧に言葉が返ってくる。……なんで顔が赤いんだろう。
「なんだ? 眠れなかったのか?」
「……いやあの、そうじゃないんだけど……」
やっぱり顔を赤くしてリナは歩みを止めた。
「……ガウリイってさあ」
ぽそ、と小さな声を出す。
「ん?」
「ひだまりみたい、なのよね」
「……ひだまり?」
なんでだろう……
「あったかいのよ。なんか……傍にいると……安心、するっていうか……」
「……うん」
「だから、つまり、……そーいうことだってば」
それだけ言うと、リナは顔を背けて歩き出してしまった。
「え? ……おい、リナ待ってくれよ」
オレは慌ててリナのあとを追いかける。
「なあ、そーいうことってどーいうことだよ?」
追いついて、隣に並んで問いかけた。
「わかんなきゃいいわよクラゲなんだから」
そっけなく言う。
……なんか怒らせるようなこと言ったか?
よくわからないまま、オレはリナと歩いていった。
相変わらずリナは少しだけ顔が赤い。
そういえばこいつ照れると怒る時、あるよなあ……
「なあ」
「……なによ」
「もしかしてお前さんなんか照れてるか?」
言ったとたん、リナは歩みを止めた。
「だ……誰が照れてんのよ誰がっ。
ばかなこと言ってないでとっとと行くわよっっ」
顔を赤くしたまま、そうまくしたてると、リナは早足で歩きはじめた。
……やっぱりなんか照れてる……
オレはそれ以上何も言わず、黙ってリナを追いかけた。
「……全く、なんでよりによってガウリイにもたれかかってたのよあたしは……」
追いつく直前に、リナが小さく呟いていたのが聞こえた。
――なるほど。
オレは苦笑してさっきの樹を振り返った。
どうやらリナも、ちゃんと眠れていたらしい。