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窓の傍に座って、あたしは洗った髪を乾かしていた。 夕食も済んだし、あったかーいおフロにも入ったし、極楽♪ 「……早いなー、リナ」 がちゃ、とドアが開いて、聞き慣れた声が聞こえてくる。 「ガウリイより先に入ったもん。 でもあたしだってついさっき部屋に着いたばっかよ」 応えると、ガウリイはタオルで長い髪を拭きながらドアを閉めた。 そのままベッドに腰掛ける。 「ガウリイもこっち来て乾かせば?」 「……ん……そのほうが早いか」 応えて傍に来たガウリイに、あたしは邪魔になるかと少し横にずれた。 と、その腕を軽くつかまれる。 「なに?」 「どかなくてもいいよ別に」 「だって……わきゃ」 くいっ、と引っ張って、ガウリイはあたしを腕の中に収めた。 「こーすれば大丈夫だろ?」 にっこりと笑う。……いやそりゃそうだけど。 ま、いいか。深くは考えずにガウリイにもたれかかるあたし。 前のあたしだったら、こんなことされたらすぐさま呪文ぶちかましてたのに。 今、は違うんだもんな…… たぶん……きっと、世間一般で言う、恋人同士、という関係……に、なってたりする。 誰がってそりゃあたしとガウリイなんだけど。 あたしは恥ずかしいしくやしいからめったに言ってやんないけど、ガウリイは愛してるって言ってくれてる。 キス、も、してるし。……その、抱かれたこともある、し。 いつのまにか同じ部屋とるようになっちゃったし……なあ。 「――何ため息ついてんだよ」 「え?」 ガウリイのことばにあたしは我に返った。 「ん……べつになんでもない」 「そか?」 軽く笑みを浮かべて受け流すあたしに、とりあえず納得してくれたらしいガウリイ。 さら、と金の髪があたしの肩にかかった。 ――長いなあガウリイの髪。 「なんか伸ばしてる理由あるの?」 「ん?」 「髪。長いから」 「別に……ずっと切ってないからだろ。伸ばしっぱなしにしてるだけだから」 そんな気もしてたけどね。 「ジャマじゃない? 戦ってるときとか」 「そう気にならねえけど……何だよ突然」 「……ん……長いなあって思っただけ」 「切ったほうがいいか?」 「そんなこと言ってないじゃない。キレイだし、あたしは……」 言いかけて、――やめた。 「ん?」 「なんでもない」 「何だよ気になるだろ」 うるさいなぁ、もう…… 「――ガウリイは長いほうが好きだからって言おうとしたのよ」 顔を背け、小さな声でそう応えたとたん、ガウリイはあたしを抱き締めた。 「ちょっ……なによっ」 「だってリナめったに言わないだろ、好きとかって」 「……ち……ちがうわよっ、単にあんたは長いほうが似合うなってっ……」 「わかってるって」 わかってないいぃっっ! だから言うのやめたのよばかっ!! 「もう、放してよっ」 「嫌だ」 きゅっ、と強く抱き締められる。 後ろ抱きのまま、顎に手をかけられて。 「こっち向けよ、リナ」 「や……やだっ」 一応抵抗してみるものの、あっさりと身体を反転させられてしまう。 「……ん」 唇が触れる。 重ねただけのそれから、少し離して、もう一度。 「ん、……ん、ぅ……」 舌を絡め取られ、あたしは彼にしがみついた。 なんでこいつこんなに上手なのよ…… くやしいけど腰にきそうになってしまう。 「……は、あ……」 唇を解放されて、あたしは息をついた。 舌を、細い糸が繋いでる。 「いいか?」 瞳を見つめて、ガウリイに求められる。 いや、じゃあ……ないけど。 「……昨日もしたじゃない」 「嫌?」 「そうじゃなくて。最近回数多いんだもん」 もちろん、あたしが本当に拒絶すれば彼はやめてくれるから、結局はあたしの出方次第なんだけど―― でもホントに最近求めてくる回数が多い、気がする。 「抱きたいから抱きたいって言ってるだけだぜ、オレは」 「だからっ! 前はそんな頻繁に言ってこなかったでしょ!?」 「そりゃ我慢してたから」 「だったら今もガマンしてよ」 「……どうしても嫌?」 やさしく苦笑してるけど、悲しそうな瞳。 ――あたしが悪い、みたいじゃないのよ。 「いや、なんじゃなくて。見境つけてって言ってるの」 「つけてるって。リナにしか手出してないぞ」 「他の女に手出したら殺すわよそりゃ。そうじゃなくて、ちょっと抑えてってこと」 「何だよ、オレがそれしか考えてないみたいじゃないか」 「なにも考えてなくて本能だけで生きてるんでしょ。あんた勘だって動物並みだもの」 「ちゃんと考えてるってば」 「たとえば?」 「リナのこととか」 ……恥ずかしいことをさらっと言わないで頼むから。羞恥心てもんはないのか。 「わかった。やっぱし本能だけで生きてるんじゃない」 「……何でだよ」 「そうでしょ。じゃなかったらもう少しガマンできるはずよ。それを毎日毎日」 「抱きたいんだから仕方ないだろ?」 「あたしはそうじゃないのっ」 なんとなくイライラしてきて、あたしは声を荒げた。 「だいたい、前はガマンできてたのに、なんで最近できなくなっちゃったのよ? あたしと会う前はどうしてたわけ? あたしが初めて、じゃないんでしょ?」 「……それは」 一瞬、言いよどむ。 「リナと会う前は、そりゃ適当に…… 傭兵仲間だった奴等に、そーいう……店、に連れてかれてたから……」 ……通りで上手いと思ったわよ。 「ちょっと待ってよ、あんたホントに他の女には手出してないんでしょうね?」 「ないって言ってるだろ?」 「……どーだかっ。最近ガマンできなくなったの、あたしと部屋がいっしょになってからよね。 その前はこっそり行ってたんじゃないの!?」 「なんでそうなるんだよ。だいたいこーいうのは誰でもいいってもんじゃないだろ?」 「ひとによるでしょ。ガウリイみたいに見境なく女なら誰でもいいって男だって」 ――言い過ぎた。 途中で気付いたけど、ことばの勢いってものは止まらないわけで。 「あたしに手出したのだって、身近にいるから便利とかだったんじゃな――」 がんっっ! 大きな音に、あたしは、びくっ、と震えてことばを止めた。 見ると、あたしのすぐ横の窓枠にガウリイが拳をあてていた。 ……今の音は、これを殴った、音……だ。 「――そんなふうに見てたのか?」 ガウリイが低くつぶやく。少しうつむいてるせいか、髪がジャマしてて表情までは見えない。 「そんなふうに思ってたのか、ずっと」 「……あ」 何か言おうとして、あたしは口を開いたけれど。 ことばが出てこない。 冗談じゃないの、って。なによ、そんなことくらいで、っていつもなら。 「わかった。もう、二度と抱いたりしない。それでいいんだろ?」 淡々と言って、ガウリイはあたしから離れた。 「……ガウ……っ」 思わずあたしは彼の腕をつかまえようとしたけれど。 ほんの少しの差で、あたしの手は届かなかった。 そしてそのままガウリイは、ドアノブに手をかける。 「ま……待ちなさいよっ、こんな時間にどこ行くのよ!?」 ようやく声を出すことに成功して、あたしは彼を呼び止めた。 「お前さんが考えてる通りだよ」 振り向きもしないで、それだけ言ってガウリイは部屋を出ていった。 あたしは、ずるずるとその場に座り込んだ。 ……怒……らせ、た……? 「な……なによ、べつに怒ることっ……だいたいガウリイが……」 言いつつ、あたしは、ぎゅうっ、と床についた手を握った。 わかってる。今のは、あたしが言い過ぎた。 ガウリイがあたしのことそんなふうに思ってないことくらい、ちゃんと知ってる。 でも、しゃべってるうちに勢いがついちゃった、んだ…… 「……け……けど、ガウリイだってっ……悪い、んだから……」 そりゃ抱かれる……のは、いやじゃ、ないし……気持ち…………いい、んだけど…… ……何考えてんのよあたし。否定はしないけどでもっ。 「あたし……」 怖かった、のかもしれない。 抱かれれば抱かれるほど、あたしが、あたしでなくなってしまいそうな気がして。 ――彼から、離れられなくなりそうな気がして。 だってガウリイがいなければ生きていけなくなるんじゃないかなんてそんなこと。 そんなこと、このあたしが思うなんて。 くしゃり、とあたしは髪に手をやった。 好きなものが増えるのと同時に、怖い気持ちが増えていったのかも、しれない。 ガウリイといっしょに歩くのも、食べるのも、戦うのも。 彼に髪を撫でられるのも、抱き締められるのも、キスするのも……全部、好きになって…… それでも、それだけじゃ足りなくて、抱かれて……たんだ。 ガウリイだから愛した。だから、彼を失ったら。それだけが怖かった。 そうならないうちに。ガウリイから離れようと、したんだ、あたし…… ……でももう、きっと……遅すぎた、のかも…… ぱたぱたと、床に、しずくが落ちた。 ――涙が出る、ってことは――やっぱし遅すぎたんだろう、な―― 「……っも……責任、取んなさ……よねっ……あのばか……っっ」 ぐいっ、とあたしは涙を拭うと、立ち上がって部屋のドアを開けた。 |
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